宝生九郎 1915 『謡曲口傳』 能楽通信社
この連休を自宅で過ごされる方も多いと思いますので、今回は国立国会図書館デジタルコレクションのパブリックドメインから紹介。
デジタルコレクションから紹介するとキリがないのですが、使ったことがない方への紹介も込めて。
このデジタルライブラリは著作権保護の満了したパブリックドメインを多く取り扱っており、使い方によっては強力です。
国立国会図書館からの転載である旨を示せば、転載可能らしいので、上記リンクから見て頂ければと思います。
オススメの著作は色々あるのですが、色々と影響を受けた一冊を紹介。
この本は十六世宝生九郎宗家による能の解説や思い出話などが収められており、所謂芸談というジャンルになるかと思います。
特徴的なのはその書きぶりで、終始辛口です、しかも激辛。他にも『寶生九郎口傳集』などの類書があるのですが、これもまた辛口。
読むと、自分のいい加減な稽古を戒められる効果がありますので、反省したいときに読むと五臓六腑に効くので、薬に近いです。
個人的に堪えた部分を引用
「所謂本読み謡と云ふのは、謡ふ時既に本に精神をとられて了つてるのだから、謡の精神をうたひ出すなどは思ひも寄らぬ事で、本にすがりながら謡ふ謡は、其曲節なり心持ちなりは、悉くこれ借り物と云つてよい。だから本読み謡をモ一遍云ひ換へれば、借り物謡とも云へるのである。だから本読み謡は如何なる美聲であつても、唯コケ威し丈けで何の役にも立たない。假令ば身に錦繍を纏うても、之れが借り物であつたら役に立たないと同じだ。其れよりも双子木綿でも自分の着物を着て居る方がよいのである。」(宝生九郎 『謡曲口伝』 1915、pp.53-54)
上記は素人向けの解説のはずですがなかなか厳しいです。宝生九郎先生は玄人だけではなく、素人に対しても平等に(厳しく)接せられているのが分かります。
しかし優しさもあって、私はかつて、後段の「双子木綿でも自分の着物を〜」を読んで、下手くそな素人でも下手なりに無本で謡うべし、という(厳しい)応援だと感じました。
自分の着物が見すぼらしいと感じるならば、常日頃から厳しく稽古をして、僅かづつでも身なりを整えましょうということでしょう。
稽古の啓発本?をお探しの方はぜひ本書をオススメします。