今日は橋弁慶の謎を一つ紹介します。
橋弁慶の後場で、子方が登場して早々に「母の仰せの重ければ」とかき口説きますが、一体母の仰せとは何なのか、宝生流の謡本では不明です。
しかし観世流橋弁慶の小書「笛之巻」に、その答えがあります。この小書では常の前場が全く違うものになります。掻い摘むと以下のあらすじとなります。
鞍馬寺で学問に励んでいるはずの牛若は、五条の橋の上で夜な夜な人斬りを働きます。それを聞いた母(常磐御前)は牛若を自宅に呼び寄せ、厳しく叱責します。ここで片グセとなり、常盤御前は幼い頃に父と死別した牛若に憐憫の情を催します。母が子を想う故の、厳しくも優しい愛を感じた牛若は泣き居てロンギとなり、牛若は寺に帰り学問に励むと約束をします
「母の仰せの重ければ、明けなば寺へ上るべし」
(母上の言いつけは大切ですから、夜明けとともに鞍馬寺へ戻ります)
己の悪行を反省し、今宵限りで鞍馬寺へ戻る決心を致すわけです。その後はややあって(牛若の持つ笛の由緒語り)中入りとなり、常の橋弁慶の間狂言と後場となります。
悪さ(人殺しですが…)ばっかりせずに、鞍馬寺で勉強しろよっていう言いつけだったんですね。
宝生流の謡本では解決しなかった謎ですが、他流の演出で謎が解けました。こういう事は良くあるので、今後も色々と紹介したいなと思います。