なら燈花会能

奈良にて、約半年ぶりに観能しました。

多方面でお世話になっております大鼓方の森山先生が翁の披キと伺い、参りました。会場は客席を半数に減じた上で、入場者記名、マスク着用などで対処されておりました。天気にも恵まれていたこともあり、客席の半分はしっかり埋まっているようでした。

翁のシテは山中雅志先生、以前大鼓新年会の二次会でご一緒させて頂きましたが、能に非常に造詣の深い先生で、今回の舞台も非常に充実したものでした。

観世流の翁は、その多くを京観世で観ていることもあり、印象が異なりました。どこが、というのは上手く説明できないのですが。

翁の謡いは「今日の御祈祷なり、など病魔退散の気迫を感じました。大鼓の手はわからないのですが(すみません。。)、揉之段も鈴之段も非常に爽快でした。翁のお囃子は笛、小鼓、大鼓いずれも魅力的ですが、大鼓は特に半間に打っている(様に聞こえる)ため、新鮮な驚きがあって面白いです。

三番三は、鶴丸剣先烏帽子がとてもお洒落でした。茂山家では見た記憶がないものでした。

全体にフレッシュな気合溢れる、満足度の高い舞台でした。

融 舞返之伝 は、ワキは「思い立ちの出」の形で登場し、一の松で「千里も同じ一あしに、とフミトメ、上歌「夕べを重ね〜、ここの打切は刻返に替えてありました。舞台に到着し、着き台詞あって、ワキ座へ居。

イッセイはすぐに出の段となって、シテがイッセイを上げ、打上ヲキにてすぐワキとの問答。うろ覚えですが、シテの位置は一ノ松だったような。普段は常座でイッセイでしょうか。

問答では河原院の汐汲や千賀の塩釜のくだりがあって、本来、籬が島に注意が向かうところから、名所教えの段にワープ。この小書の時の標準の形なのかどうかは不明です。

ロンギの常の型はわかりませんが、特に目新しい型はなかったように思います。「いざや汐を汲まんとて、のあとは、替打切としていました。続く手は、初番目のワキ道行のようにカシラ組には接続せず、ツクス間を打って「持つや田子の浦、としていました。

汐を汲み、田子に映った月を見た後の中入は、一旦、一の松に下に居となって跡も見えなくなった後、改めて幕入りとなっていました。舞台に残された田子に風情がありました。田子を打ち捨てる型をとても丁寧に音を立てずになさっていました。後見にすぐに回収されないようにでしょうか?

後シテは、初冠でした。観終わった後、パンフレットの写真を見返すと立烏帽子だったので、両様あるのでしょうか。パンフでは真太刀を佩いていましたが、思い返すと今回は太刀は無かったように思います。注意していなかったので、不確かですが。

早舞の舞返しですが、盤渉早舞五段を舞った後に、急之舞を三段舞うもののようです。早舞は実質四段なので、実質七段、形式八段でしょうか。これに黄渉早舞五段を加えれば十三段之舞になります。とはいえ、十三段之舞の省略という印象はなかったです。

早舞三段目は、太鼓が特殊な段の手を打っていました。常の早舞の手でも、十三段之舞の手でもなさそうです、氷室一調にあるような、右大の撥二ツ、左大の撥二ツ、などを含む強い手でした。

三段目の地頭になるところ(ワキ座で一之松を見込むところ)で、位シマリ、クツロギとなります。笛は盤渉を維持していました。太鼓は祈リ地打ち行きとなり、大小は通常の流し。位進めつつシテ幕前で再びシマって、総流しとなり、シテが常座に戻ったところで地に戻り、後は常の様に四段を取っていました。

四段目は、打込となるところで、シテ常座高めで後見座を向いて扇閉じ、太鼓打切カシラスリツケとなり、笛盤渉ユリガカリにて急之舞に突入。融早舞の導入句の「ヒヒャウラウラウ〜、を2回聴かせるのは面白い趣向だと思いました。早舞導入部は黄渉、急之舞導入部は盤渉の違いがあります。

八段の舞打上はカシラに付けて地の謡い出し。他流でも小書の時はよく見る形です。

キリは「名残惜しの面影、の初句で幕入りし、返しでワキ留めとしていました。

今回の融について、前場で籬が島のくだりを省略してしまった結果、月こそ出でて候のあたりも省略されており、融を象徴する月が不在のまま進行してしまいました。結果、前場で汐汲みをして田子に月が映る、というシーンにあまり説得力を感じませんでした(わざわざ替打切とするくらいですから超重要シーンでは?)。能や融を熟知している上級者ならば、舞台を煌々と照らす満月を想像するのは容易かも知れませんが、あまり優しくない演出と感じました。

例えば、「塩釜を都の内に移されたること承り及びて候、(割愛)、また見え渡たる山々は皆名所にて候らん御教え候へ」の様な台詞を「塩釜を都の内に移されたること承り及びて候(ここまでシテに向かい)、(正へ向き)や、月こそ出て候へ、(正から左ウケ)また見え渡たる山々は皆名所にて候らん御教え候へ」などのような形にすれば、良心的ではないでしょうか。シテ方ワキ方とも申し合わせが必要になりますが。。(などと妄想)

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