地拍子 本地3

 宝生流では下記の地拍子に則って謡います。

 便宜上、前回紹介した原則的な地拍子を地拍子甲、宝生流の地拍子を地拍子乙と称する事にします。

表.3 地拍子 乙

文字 左手(○●)

右手(△▲)

 

   
1  
     
2  
  |    
3  
     
4  
  |    
5  
     
6  
     
7  
     
8  

 地拍子乙を打てるようになることで、宝生流の謡に近づく訳ですが、実は宝生流においても常に地拍子乙に従う訳ではなく、地拍子甲も適宜利用します。

 こう書くと、地拍子乙が基本かと思われるかもしれませんが、厳密に言えば甲が主、乙が従です。宝生流の謡の複雑さの一つが、この甲乙両輪の地拍子を複合的に利用することにあります。

 とはいえ下の句は甲乙どちらにおいても変化がないため、問題は上の句になります。

 原則的には、奇数拍前後に対応に節がついている場合、地拍子甲となり、それ以外の箇所では地拍子乙が使われる、と考えて頂いてほぼ問題ないです。おいおい紹介いたします。

 上の句の奇数拍がどの文字に当たるのかは、下表のように上の句の文字数から概ね判定できます。参考に、羽衣クセから文字数の例を示します。

表.4 文字数と奇数拍の対応

上の句の文字数 何文字目が奇数拍か 文字数の例
8文字 ③④⑥⑦ 「のかなうら
7文字 ②③⑤⑥ なびにけ
6文字 ①②④⑤ 「たぐなみ
5文字 ③④ 「おしろ
4文字 ②③ のう
3文字 ①② 「しば
2文字 「げ

 上表を見て頂くと、奇数拍となる文字に何らかの法則性が認められそうな気がするのではないでしょうか。今後紹介いたします。

 上表は謡い出しの間との兼ね合いを無視しているため、絶対的ではありませんが、増節(いづれ解説)やコキ(いづれ解説)がない限りは、謡い出しの間に関係なく従います。

 注意として、平ノリを原則としているので、中ノリ部分では、役に立ちません。とはいえ、中ノリでは節を小さく扱うため、地拍子甲乙の区別は問題になりません。

 ただし、中ノリ謡の中であっても、いわゆる中ノリ風(いづれ解説)と称せられる平ノリ部分では、上表とある程度整合性がとれるかと思います。

(読み飛ばして結構です)
 上の句は10文字、9文字の場合もあるのですが、中ノリの要素が含まれており、かつ出現頻度は180曲中でも合わせて10か所ない程度だと思われるので、割愛しました。←本地のみで解決する場合です。トリの間を含む上の句9文字、10文字の用例は多岐に亘ります。

 また上の句1文字は、平ノリには存在せず。大ノリでは通盛に「化(け)」一文字という例あり。

 なお、喜多流においても地拍子乙が認められますが、地拍子甲乙の使い分けに関しては、筆者の不勉強のため分かりません。

NO IMAGE