民法 春日龍神 同時履行の抗弁と意思表示無効

春日龍神を現代民法の立場から解釈してみます。中入りでシテは「入唐渡天をとどまり給はば、三笠の山に五天竺をうつし、摩耶の誕生、伽耶の成道、鷲峯の説法、雙林の入滅までことごとく見せ奉るべし、暫くここに待ち給え、と約束しています。これは下記に概括する双務契約となります。

明恵上人を日本に留める(債権1)
摩耶の誕生を見せ奉る(債務1)
伽耶の成道を見せ奉る(債務2)
鷲峯の説法を見せ奉る(債務3)
雙林の入滅を見せ奉る(債務4)

やや一方的に契約を果たしたシテは、結局、自己の債務を弁済できたかと言うと・・・(前シテの尉と後シテの龍神は同一人物であると仮定)
キリを確認すると「摩耶の誕生、鷲峯の説法、雙林の入滅、ことごとく終わりて・・・とあります。中入りの文句と較べると、伽耶の成道(債務2)に関しては履行されていないですね。民法を確認すると

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民法第533条
「双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない」

とあります。上記は契約における重要な原則なので、同時履行の抗弁という言い方もあります。弁済期を便宜上、演能終了時点とすると、ただし書きは関係なくなるので、前半部分はこのように読み換えられます。

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「双務契約の当事者の一方(明恵上人)は、相手方(龍神)がその債務(龍神の債務1~4)の履行を提供するまでは、自己の債務(龍神の債権1)の履行を拒むことができる。」

さて、キリでは明らかに、(債務2)が履行されていないので、明恵上人側としては、龍神に債務不履行を指摘すれば、自己の債務を拒むことができ、日本脱出の分がありそうです。

ところがキリの続きを見てみると「明恵上人さて入唐は、とまるまじ。渡天は如何に、渡るまじ。さて佛跡は、尋ぬまじや・・・とあります。明恵上人は聞き分けよく、日本に留まる人生を選択(意思表示1)しました。

このところ、龍神の所作としては、明恵上人に向かってマキザシて詰め寄ったり、明恵上人に対して面切リや合膝と言った強い型を連発します。恒沙の眷属を引き連れた大龍神にこれほどまで脅かされると、明恵上人がタジタジになって(意思表示1)を示した可能性が考えられます。

すると次に問題になるのは、これは脅迫ではないかということです。民法を確認すると、

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民法第96条1項
「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」

とあります。脅迫による意思表示無効の成立要件は、wikipediaの文句を借用すると、下記です。

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1.ある者が表意者に対して強迫行為をすること(明示か黙示かは不問)
2.強迫行為により相手方を畏怖させること(故意を要す)
3.畏怖により相手方が意思表示を行うこと
4.目的・手段が不法であること

型と詞章を勘案する限り、要件1.~3.は満たしているでしょう。問題は4. 目的・手段が不法であることですが、明恵上人はこの点の立証をガンバルことができれば、意思表示無効となり、念願の日本脱出ができるという訳です。

やまだ
演能の後日談として想像してみて下さい。
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